2012年8月8日水曜日

MigMixフォントのライセンス変更要求に関して

先月、以下の記事が公開されていることをtwitter上で知りました。
IPAフォントライセンスv1.0は非共存ライセンスと判明 - itouhiroメモ
http://d.hatena.ne.jp/itouhiro/20120607

上記はVineだけではなく、Debianにもパッケージが存在するMigMixフォントの製作者のブログです。
このフォントはIPAフォントとM+フォントを合成したフォントで、今までライセンスは

  • IPAフォントライセンス
  • M+フォントライセンス
の両者が適用されていました。これを承け、VineではSPECに両ライセンスを併記し、ドキュメントにも両ライセンス文書を含めていました。

ところが、上記ブログではIPAからこのライセンス適用は適切ではないから修正せよ(具体的にはIPAフォントライセンス単独適用とせよ)と求めてきたため、IPAフォントライセンスのみの適用に修正し、IPAもその結果を諒としたと述べています。

この流れを読み疑問を感じたのは、
M+フォントのライセンスについて、IPAは一体どう捉えて処置を指示したのか?
という点でした。

IPAに質問してみた

この疑問に対してあれこれ考えるよりも、要求をした大元に尋ねるのが一番手っ取り早いだろうと考え、以下の質問メールをIPAのフォームより投じてみました。(実は6月中にも一度同様の内容を投じたが音沙汰無し。そのため、7月にもう一度投じている)

本日、IPAフォントを用いた合成フォントMigMixとMiguの作者のブログを閲覧した際、IPAフォントライセンスが非共存との指摘を受けたとの記事を目にいたしました。
http://d.hatena.ne.jp/itouhiro/20120607

上記記事では作者による対処の結果が記されており、結果MigMix及びMiguの両フォントはIPAフォントライセンスだけが適用された状態となり、IPAもそれで諒とした旨が述べられております。

しかし、上記の対応からはIPAフォントと他のフォントを合成した際、IPAフォント以外に用いられたフォントのライセンスはどのように適用・処置されるべきなのか、疑問が生じます。(MigMixの場合、M+フォントのライセンスは無いものとされたように見える)

合成フォントを作成する際に用いられたIPAフォント以外のフォントのライセンス適用について、IPAとしては如何に考えているのか、お答え頂ければ幸いです。なお、今回の質問及び返答については周知を目的として公開を考えておりますが、問題ございませんでしょうか。

以上、よろしくお願いいたします。

IPAからの回答

上記質問メールに対し、IPAのIPAフォント担当者より返答がありました。ちなみに、回答内容の公開については最初返答がなく、再度問いなおしたところ"転載を禁止する"との返答をいただいています。ゆえに、メール内容そのものの転載はせず、こちらで要旨を箇条書きにまとめてみました。

  1. IPAフォントライセンスはOSIによる「オープンソース定義(OSD)」に準拠したライセンスと認定されている。
  2. ソフトウェアの作者がどのライセンスを採用するかは自由だが、採用ライセンスの種類次第では権利が制限される場合がある。(ここでの"権利"とは、再配布行為や他のソフトウェアと組み合わせての利用のこと)
  3. "ライセンス間の矛盾について"(http://sourceforge.jp/magazine/06/06/09/1537222)の以下の部分が引用される。
    「二つないし複数のプログラムを「リンク」すると全ては一つになり、結合著作物となる。複製や頒布など、「リンク」したものを一緒に扱う際には、「リンク」したプログラムのライセンスで指定された条件を全て満たすようにしなければならないわけだ。言い換えれば、最も制約の厳しいライセンスが全体のライセンスと等しくなる。」
  4. 異なるオープンソースライセンスで配付されている二つ以上のソフトウェアの組み合わせ利用の可否は、それぞれのライセンスの内容に基づき判断が必要。ライセンス適用方法については弁護士等への相談を勧める。
  5. IPAではIPAフォントライセンス第3条4項に明記されている通り、IPAフォントに関する個別相談(ユーザーサポート・ライセンス面等)は受けつけていない。

内容は概ね以上となります。私の質問の仕方に問題があったせいか内容がやや断片的なきらいはありましたが、繰り返し読み込んで調査しながら考えていった結果、IPAがMigMixフォントに対してライセンス変更を要求するに至った論理が概ね推測できました。以下、私の考察を述べてみます。

考察

IPAからの回答一点目については、概ねオープンソースに携わっている人たちなら承知していることだと思いますので特段問題ないでしょう。肝は二点目を承けた三点目の中、つまり「最も制約の厳しいライセンスが全体のライセンスと等しくなる」にあるように考えられます。

ここで、M+フォントライセンスとIPAフォントライセンスをざっくりと比較してみます。

M+フォントライセンス(http://mplus-fonts.sourceforge.jp/mplus-outline-fonts/index.html#license)は非常に制限の緩いライセンスです。その内容をまとめると、

  • 利用・複製・再配布は許可(改変の有無・商業利用も問わない)
  • 全て無保証
の二点となります。

一方、IPAフォントライセンス(http://ossipedia.ipa.go.jp/ipafont/index.html)はM+フォントライセンスより厳しい制約を課しています。詳細は上記リンクに譲りますが、

  • 改変・再配布は可能だが、派生物にはIPAの名称を使用してはならない
  • オリジナルのIPAフォントに戻せる方法を提供しなければならない
  • 派生プログラムを定められた条件の下でライセンスしなければならない(MigMix作者にライセンス変更を要求した根拠となったライセンス第3条1項(3))
などが規定されています。

つまり、大まかな流れとしては

M+フォントライセンスとIPAフォントライセンスを比較した際、後者がより厳しい制限を課している。
「リンク」したものを一緒に扱う際は「リンク」したプログラムのライセンスで指定された条件を全て満たすようにしなければならないから、最も制約の厳しいライセンスが全体のライセンスと等しくなる」という見解がある。
M+フォントとIPAフォントを合成した場合(今回の場合MigMixフォント)、両ライセンスの条件を満たすようにするにはIPAフォントライセンスがMigMixフォントのライセンスとなるべき
という思考の流れで今回の要求に至ったのではないかと私は推察しました。

まとめ

IPAにはこういう考えですか?と回答内容の公開について再度問いなおした際に書いたのですが、反応がありませんでした。そのため隔靴掻痒の感が否めないのですが、つまるところIPAの行動は「ライセンスの影響力の強さ」を踏まえたものであったように思われます。