はじめに
ディストリビューション/パッケージマネージャー Advent Calendar 2013も19日目です。
本日はVine Linuxの開発版、VineSeedの現状について書きます。
2年ほど前から勉強会やイベントに参加するようになりましたが、その都度自己紹介するたびに言われるコメントとしては
- 「Vineの人ですか!」
- 「Vine昔は使ってました。」
- 「今もまだ頑張っていたんですね…」
- 「とっくに消滅したと思っていました」
開発陣の人数がそれほど多くないためリリース頻度も多くないことに加え、有力な海外Linuxディストリビューションが続々と林立するようになった昨今、相対的に存在感が低下してしまっているのは否定し得ません(日本における他のディストリビューション関係者は概ねキャラ立ってるうえに濃いしなあ…と、Debian/Gentoo/Ubuntu方面を見て思うわけです)。
そんな中少しでも存在感を出してみようということで、次期安定版に向けて開発中のVineSeedについて、触り程度ではありますが紹介・解説してみようというのが本記事の主旨になります。
VineSeedの概要
VineSeedは開発版なので、当然ISOイメージは提供されていません。VineSeedの開発状況を知るには
【ベース】
パッケージ | バージョン | upstream最新版 |
---|---|---|
bash | 4.2 | yes |
gcc | 4.8.2 | yes |
glibc | 2.18 | yes |
grub | 0.97 (2.00はtest package) | 2.00 |
linux(kernel) | 3.10.20 | 3.12.5 |
openssl | 1.0.1e | yes |
systemd | - | 208 |
xorg-server | 1.14.4 | 1.14.5 |
【軽量言語】
パッケージ | バージョン | upstream最新版 |
---|---|---|
perl | 5.12.3 | 5.18.1 |
php | 5.5.7 | yes |
python (Python 2) | 2.7.6 | yes |
【デスクトップ環境】
パッケージ | バージョン | upstream最新版 |
---|---|---|
GNOME (gtk+,gnome-shell, nautilus) | 3.10 | yes |
KDE(kdelibs,qt4) | 4.11 | yes |
LXDE(lxde-common) | 0.5.5 | yes |
MATE(mate-desktop) | 1.6.1 | yes |
xfce(xfdesktop) | 4.10.0 | yes |
【デスクトップアプリケーション】
パッケージ | バージョン | upstream最新版 |
---|---|---|
chromium | 22.0.1229.94 | 31.0.1650.63 |
firefox | 26.0 | yes |
gimp | 2.8.10 | yes |
thunderbird | 24.1.1 | 24.2.0 |
vlc | 2.1.2 (self-build package) | yes |
【サーバー】
パッケージ | バージョン | upstream最新版 |
---|---|---|
bind | 9.9.4 | 9.9.4-P1 |
cups | 1.4.8 | 1.7.0 |
dhcpd | 4.1.ESV.R4 | 4.2.5-P1 |
httpd | 2.2.23 | 2.4.7 |
mariadb | - | - |
mysql | 5.5.30 | 5.6.15 |
openssh | 6.4p1 | yes |
postfix | 2.10.2 | yes |
postgresql | 9.0.12 | 9.3.2 |
samba | 4.1.3 | yes |
今の所、特にサーバーソフトウェアに古いパッケージが多く見受けられるものの、それ以外では概ね最新版に追従できており、他のディストリビューションとほぼ遜色はないと言えるでしょう。
先にも述べた通りVineSeedはVine Linuxの開発版という位置づけにあるため、次期安定版はVineSeedをベースに作成されます。故に、特別な理由でバージョンを固定するもの以外は概ね安定版をリリースする時点で最新、或いはそれに近いバージョンのソフトウェアが投入されますので、「Vineはソフトウェアのバージョンがが古くて…」というイメージは持たないで欲しいものです。
※安定版のリリース間隔が空くことにより収録ソフトウェアに相対的に古くなってしまうものが出てくるのは事実ですが、安定性に支障のない範囲で更新はされますので、致命的に利用に問題が出てくるという状況には今の所なっていないと思います。
各項目解説
ここでは、上記の項目毎に適宜補足・解説してみたいと思います。
【ベース】
- gccやglibc等は、昨月アップデートが行われました。これらに関しては過去の事例から考えて、大きな問題が出てこない限り今後しばらくは大幅なアップデートは行われないと思います。
- kernelは最新のものではありませんが、3.10系はLTS(長期サポート、Long Term Support)である旨が宣言されているバージョンです。最近は3.10系で更新されていますので、次のLTSが登場するまでは3.10系で更新されていくことになると考えられます。
- systemdは従来のinitデーモンに代わるものとしてRHEL 7に搭載されることで注目を集めています(参考)。しかし、現状VineSeedにはパッケージがありません。VineではUbuntu由来のUpstratが採用されており、Vine 6.2では1.2、VineSeedでは1.6が投入されています。このままUpstratでいくのか、それともsystemdに切り替える or 対応させるのかは、まだ公式にミーティング等で議論がされていません。
【軽量言語】
- perlがだいぶ古いです(Vine 6と同バージョン)。しかし、メンテナーが作業することを宣言しているので更新作業はされるはずです。
- DistroWatchではRubyがピックアップされていませんが、2.0系が投入済です。ておくれな人たち御用達のmikutterも動きますよ!
※self-build-mikutterとしてパッケージが存在します。
【デスクトップ環境】
- メジャー所のデスクトップ環境は概ね使用可能です。Linux Mintで採用されているCinammonも利用可能です。
※最新版の2.0ではなく1.8.8。 - Qtを用いた軽量デスクトップ環境であるRazorQtは現在ありません。以前、LXDEとRazorQtが統合するとのニュースがありましたが、それをうけてLXDEもどうすべきかという課題が生じているため、今後の動きを見て考えることになると思われます。
※VineにおけるLXDEのメンテナーは私です。
【デスクトップアプリケーション】
- Vineではマルチメディア系アプリケーションの多くがself-buildという仕組みで提供されています。これはバイナリで配布することが難しいソフトウェアを導入するための独自の仕組みですが、vlcをはじめとしてmplayerやffmpeg等がこれで提供されています。
- self-buildの仕組みを利用したinstall-assistという仕組みもあります。これは外部で提供されているパッケージを自動的に取得し、インストールする仕組みです。LibreOfficeやOperaのインストールにこの仕組みが用いられています。
【サーバー】
- サーバーソフトウェアは全般的にメンテナンスが遅れ気味です。メンテナーがいるパッケージは追従されてはいるのですが…
終わりに
かなりざっくりと紹介してきました。全体の傾向として、ベースやデスクトップ環境は最新への追従が行き届いている一方、サーバーソフトウェアはメンテナンスが遅れ気味ということがわかると思います。
開発陣が少ないために一人で多数のパッケージをメンテンナンスしているのが実情ですが、どうしても追い切れない部分や特定のメンテナーに負担がかかる状況は避け得ない問題で、それがサーバーソフトウェアに端的に現れていると言えます。
※これはサーバーソフトウェアに限定される問題ではなく、例えばpythonは本体もさることながらライブラリーのメンテナンスが滞りがちです。
締めとしてこの文言もどうかとは思いますが、上記状況を何とかしてみようという意志のある方、Vine Linuxの開発に参加してみませんか?開発コミュニティへの参画は様々な方面へと知見を広めるチャンスともなり得ますし、メンテナンスが滞りがちなパッケージではあるが自分が必要としているパッケージなどは、自分の好きなようにカスタマイズできますよ。